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「漫画の神様」手塚治虫…天才を育てた母の愛
漫画家、アニメーター、医学博士など様々な肩書を持つ手塚治虫は戦後日本における漫画の第一人者として現代にまでにつながる日本の漫画表現の基礎を築き上げた天才です。
『鉄腕アトム』『ジャングル大帝』『ブラックジャック』等に代表されるヒット作を次々と手がけ、世界中の子どもたちに夢と希望を与えました。
そんな彼は1928年に大阪に生を受けます。
治虫の家庭は比較的裕福で、新し物好きのお父さんが収集した当時は珍しい漫画が本棚にありました。
このような環境も彼の才能を引き出した要因の一つと言えます。
しかしそれ以上に、彼が母から受けた影響はとてつもなく大きいものでした。
治虫のお母さんはとても優しく理解のある人で、いつも彼のありのままを受け入れてくれました。軍人の娘として厳しい躾を受けて育った彼女は、非常に忍耐強い女性でもありました。
幼少期にいじめられっ子だった手塚少年に彼女はいつも、「堪忍なさい」「我慢しなさい」と言い聞かせていました。
治虫は大人になってから、「癇癪持ちだった自分が、大人になってなんとか腹の虫を抑えることができたのは、母から教わった忍耐のお陰かもしれない」と述べています。
彼のなかで母の言葉が重みを持って響いて長く心に残っていたことがよくわかるエピソードです。
治虫の漫画の才能をいち早く認め、褒めた母の言葉
治虫の人並み外れた想像力の才能に気付いていた母親は、熱心に本や漫画を読んで聞かせました。
登場人物に応じて声色を変えたり、感動的な場面では心をこめて語りかける姿は女優さながら。
治虫は本や漫画の世界に引き込まれ、夢中で瞳を輝かせていたそうです。
その内に治虫少年は小学生になりました。
池田師範付属小学校というかなりの進学校に通うエリート少年だったのです。
ある日の授業中のことです。
当時から漫画が大好きだった治虫はノートに漫画を描いていました。
すると先生がそれを見つけて、たいへんに怒って母を呼び出します。
当時の漫画は認められておらず、市民権を持たなかったのです。
学校に呼び出されたあと、家に帰ってきた母は、治虫にこう尋ねました。
「どんな漫画を描いていたのか見せてちょうだい」
治虫が持ってきたノートを母は何も言わずに最初から最後までじっくりと読みました。
そして次のように言ったのです。
「治ちゃん、この漫画はとてもおもしろい。お母さんはあなたの漫画の、世界で第一号のファンになりました。これからお母さんのために、おもしろい漫画をたくさん描いてください」
すごいと思いませんか?
頭ごなしに叱ってしまう場面かもしれません。
しかし彼女は彼の才能を見出し、たとえ世間に咎められようとも認めて褒めてあげることで天才を引き出したのです!
治虫も大好きなお母さんが味方になってくれると思えば自信を持って漫画に集中することができたのでしょうね。
治虫の才能を信じ、漫画家への背中を押した母
治虫は医学博士の肩書も持っていて、その医療の知識は『ブラックジャック』の作品づくりに生かされたそうです。
大学時代には医者への道を目指した治虫ですが、次第に医学と漫画の両立に悩むようになりました。
そこで母親に相談したところ、彼女はこう尋ねました。
「あなたは漫画と医者とどっちが好きなの?」
治虫は母の前に素直になって即座に答えました。
「漫画です」
すると母は
「じゃ、漫画家になりなさい」
とあっさり答えたそうです。
当時の漫画家の地位はとても低く医者とは比べ物にもならなかったにも関わらず治虫の才能と情熱を信じて背中を押してくれたのです!
素晴らしいですよね。
治虫はこのときのことを振り返り自伝に感謝の言葉を述べています。
「母はいいことを言ってくれたと思います。母のこのひと言で決心がつき、本当に充実した人生を送ることができました」
手塚の作品のなかではしばしば母子の温かい絆が扱われています。
いかに彼のなかで母親の存在が大きかったかがよくわかりますね。
「今のあなたのままでいいのよ」
という損得を顧みない絶対肯定の愛情は治虫の才能を伸ばし天才を育てたのです。
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