mamさん
1978年生まれ 11年目
私立認可園 主任
3児の母
mamさんのインタビュー前編はこちら。
―mamさんの目指す保育士とはどのようなものでしょうか。
私、長女の子育てで失敗してるんです。その失敗から、自分の目指す保育士像ができたと思っています。
―失敗ですか?
初めての子育てだから自信がないのは当たり前なんですけどね。お姉ちゃんだからしっかりしてとか、ちょっと我慢するしかないんだよなどと言ってしまっていました。私も長女でそう言われて育ったからもあるんですが、今思うと無理を強いていたんだなと思います。
―そのような時があったのですね。
小学校3年生くらいから長女との関係がうまくいかなくなり、不登校ぎみになってしまったんです。でも親としてのエゴだけでなく、学校で学べることってたくさんあって大切だと思っていたので、行ってほしかったんです。行ったら行ったで友だちと遊んで帰ってくることもあり、なんだ、行けば遊べるんじゃん、大丈夫大丈夫!と楽観的に言い、時には無理矢理連れて行くこともありました。娘にとっては色々思うことがあったのに、それに気づけず、行きたくないという気持ちに寄り添えていなかったんですね。そんな日々が高校生になるまで続きました。お互い本当に辛い日々でしたね。そんな高校生のある日、高校に行きたくないと言う長女に対し、じゃあ辞めてもいいよと一言返したんです。すると、その一言から急に世界が変わったんですね。娘は高校に通うようになり無事卒業し、今は大学にも通っているんです。一言思いを認めてあげることで急に自信がつき、やり遂げられるようになったんだと気づきました。今はお互いの関係もすごく良好なんです。向き合えて良かったと心の底から思います。当時は本当に辛かったですが、そんな日々があったから今この仕事ができているなと思います。高校生に対しても、乳幼児に対しても同じですよね。好き勝手をさせるわけじゃないけど、その子がどうしてそのような行動をしているかを考えることが何より大切。今は、発達障害の子やいわゆるグレーゾーンと言われる子など色々なお子さんがいますが、ただ抑えつけるだけじゃなく、どうしてそのような行動を起こすのか一緒に考えてあげることが大事なんだと思います。なので、一斉に何かをしなければならないという保育に私は違和感を感じてしまいます。子どもの多様性をもっと認め、その子に合った良いきっかけ作りをしてあげられる保育士になりたいなと思っています。私にとって長女育てが一番大変だったことなので、保育園で難しいお子さんを預かったとしても、うちの子よりずっとましよ、なんて気楽に思えたりします。その点でも娘に感謝ですね。
―辛い経験を乗り越え、ご自身の成長に変えられたわけですね。言葉になりません…
あとは、子どものことだけでなく保護者の気持ちも分かり、大事にしたいと思うようになりました。保護者が心身ともに元気でないと、子どもも健康に育たないなと思います。祖父母宅が遠いなど大変な家庭も多いので、第三者として家庭のような居場所を作りたいですね。長女の時は、大切な我が子なのに愛せないと思うことがあり、自分を母親失格だと責めたんです。今思うとそれは自分に余裕がなかっただけなんですよね。なので、もし自分を責めてしまうお母さんがいたら、そんなことないよと言ってあげたいです。
―子どもへの寄り添いと同じだけ、親への寄り添いが大切ということですね。数々の経験を経て生まれた、mamさんの理想の保育士像というわけですね。それだけ厚みのある理想像に思います。そしてこの度主任となり、そちらの目標はどんなところでしょう?
まずは、保育士の働く環境を改善することですね。うちの園は未だに休憩時間が取れてないんです。昼寝時間にお茶を持ってきて、子ども達を見守りながら休憩を取るというスタイルで、なかなか部屋を出て一時間休憩を取ることができていない。また、給料は年々処遇改善で上がってきてはいるものの多職種に比べると低いし、拘束時間も長い。働きやすい環境を作るのが管理職の仕事だと思っています。
―なるほど…!
なんか、休憩が取れないのが当たり前になってしまっている職員も多く、そこの意識改革も必要ですね。あとは、自分たちが余裕なく働いていることが弊害となってか、保護者へも攻撃的になる職員がいるんです。あの人今日休みなのに預けてますよ、とか厳しく保護者を取り締まったりなんかして。気持ちは分からなくもないけど、色んな保護者がいて、それぞれ理由もあるだろうし、皆同じルールでは縛れないよなと思います。もう少し自分に余裕があればそこまで攻撃的にならないんじゃないかと思うので、まずはそのための環境作りをしたいですね。
―うぅ、おっしゃる通りですね。それってどうしたら改善されていくんですかねぇ。
今は比較的人員が潤っているので、やれなくはないと思うんです。だからやり方を考えなければ。周りにも、休憩を取れていない園が多いと聞きます。そのような園も、ちゃんと取れている園をモデルとして見せればどんどん変わっていくと思うので、自分のところから変えていきたいです。自分もそうですが他の職種から来た人にとっては、休憩が取れないなんてありえないと思いますね。パートさんの協力体制などを考え、やりくりしたいと思います。ただ、休憩を取ることで仕事が終わらないと言われたら意味がないので、仕事の見直しは常にしていきたいです。書類をもっとやりやすいものに変えるなど細かなところから少しずつ改良していきたいと思います。
―なるほど。主任の先生がみんなのことを考え変革しようとしてくれていて、頼もしい限りですね。逆に、主任として後輩に求めることってありますか?
自分の意見をどんどん言って欲しいですね。間違っていてもいいので、失敗を恐れず、色々なことにチャレンジしてほしいです。それが私にとっても気づくきっかけになりますし、みんなで考える題材にもなります。それぞれの持ち味を出して、色々な意見が飛び交う職場になればいいなと思います。
―保育園って意外と上下関係が厳しかったりリーダーのトップダウンだったりすることが多い中、上に立つ先生がそのような心掛けだと後輩たちも心強いですね!羨ましい!
いやいや~もう自分の頭で考えられないだけですよ(笑)
―何をおっしゃいますか!なにせmamさんは保育士の副業も考えられているのだとか。
運営に関わってみて改めて思ったのは、給料を上げる仕組みの見通しが全く持てないということ。昇給が毎年少なく、何年働いても上がるのってこれだけか⁉という給料体系。まだ漠然としているんですが、副業とまではいかなくても、例えば簡単な投資などをできたらいいなという思いがあります。また、少ない賃金でもやりくり上手になれるように、マネーリテラシ―を勉強する研修もできればいいなと。けどそのためには時間の余裕が必要ですね。今の状況でやっても中途半端なので、まずは仕事が定時できっちり終わり、休憩もしっかり取れ、保育の質を確保できることが前提条件です。その先に、今の少ない給料でもやっていけるような金銭感覚を勉強する機会を作れたらいいなと思っています。国がもっと補助金を上げて支援してくれればいいんだけど、待っていても何も変わらないですしね!自分たちができることは何だろうと考えていきます。
―保育士のキラキラとした姿だけでなく、現実もしっかりと見据えていくということですね。さすがです!
私の理想論です。でも理想を言葉にしたらあとは頑張るしかないので、これを決意表明にします!
味わった方にしか分かり得ない辛い日々を過ごされたことでしょう。保育士として働く傍らそんな日々を乗り越えられ、今では保育士としてのご自身の糧に変えてしまわれました。自分の魅力は笑顔で、いつもニコニコ笑顔を振りまく存在でいたいとおっしゃるmamさん。その優しい笑顔の裏には、今まで経験してきた痛み、悲しみ、希望、強さ、弱さ、そして何より深い愛が宿っていることでしょう。そんなmamさんが主任となり、保育園を変える!と言ってくださっているんです。期待せずにはいられません。mamさん、この度は貴重なお話を聞かせてくださり、心より感謝申し上げます。
(2021.4.18 聞き手・編集:土屋)