ちゃおさん
60代 保育歴:子沢山でとぎれとぎれ
東京都認証保育園 園長
−ちゃおさんは、編者の息子たちが通う保育園の元園長。編者に保育の素晴らしさを教えてくれた恩人でもあります(こちらの記事もご参照ください)。昨年に前職場の定年を満了し、現在は新たな保育園にて園長を務めています。ちゃおさんは保育歴何年になるのでしょう?
園長歴は20年以上で、さまざまな経験をしてきました。私は子どもを6人産んでいて、その合間に非常勤で働いたりどうカウントしたらいいのかわからないので…「子沢山でとぎれとぎれ」と書いておいてください!笑
−新しいですね、かしこまりました!ちゃおさんが保育士になったきっかけはどんなことだったのでしょう?
高校3年生の夏、救護施設に行くワークキャンプに参加したのがきっかけです。「3泊1000円で行けるよ」と聞き、なんだか面白そうだと思って。戦争で負傷した方、耳が聞こえないなどの障害を持った方が暮らす施設で寝食を共にしました。その時に「世の中のことをもっと知りたい」「勉強して人の役に立ちたい」と猛烈に思ったのです。
−どんな場面でそう思ったのですか?
そこにはこれまでに会ったことのない人の生き方がありました。話ができない人の、文字にならない声。それが「私はバナナが好き」だとわかり合えた、繋がれた時の何とも言えない喜びと感動。消毒液の匂いが充満する空間での質素な食事、施設の方々がそれを美味しそうにかきこんで食べる姿。ワークキャンプを主催していた大学生がソクラテスとかプラトンとかマルクスとか、知らないことをたくさん語ってくれたこと。世の中って一体何なの?私は知らないことが多い!という衝撃が吹き出したような感じです。
−世の中って一体なんなの?は、具体的にどんなギャップだったのでしょう?
私は幼いながらも「みんな公平であるべき」という信条があったと思います。だから「同じ人間なのに生き方が違う」ことに初めて触れた胸騒ぎというか、ドキドキが止まらなかった。それから週末はいろんなボランティアに参加しました。とにかく夢中で、当時のアルバイト代は全て交通費に消えちゃいましたね。
−それで保育士を志したのですね?
「女が学を積んでどうする!」「学費は1円たりとも出さない!」という家庭の子どもだったので、高校卒業後の就職先も決まっていたのですが…どうしてももっと学びを深めて役に立てる人になりたかった。当時入学金も月謝もなしで保育を学べる学校があり、これだ!と思って受験のために猛勉強でした。卒業後は障害者施設で働いたあと、育児をしながら働ける場所を探したら保育園でした。区に登録して代替職員として保育園で短期間働いたり、24時間開所する保育所で働いたり、認可も認可外も本当にさまざまな現場を体験しました。
−多くの職場を経験したちゃおさんが考える、自分に合う職場の見つけ方とは?
どんな職場も良いところが必ずあります。マニュアルや流れがしっかり出来上がっている大きなところで学ぶのもよし、小さなところで少しずつ基礎を積むでもよし。小さなところは分母が小さいということ、言い換えると大きなところよりも多くの経験が積めるということ。職場を探す上で大切なのは「自分の声を出せる場所」かどうか。それは一度の実習や見学でわかることじゃないかもしれませんが…なるべく多くの施設を見て、たくさんの人と話すに限ると思います。見学時に対応してくれた人を一人でも「この人だったら話ができそう」だと思えたら最高。味方になってくれる人が一人でもいたら突破口になりますし、仕事もしやすくなりますから。
−なるべくたくさんの人と話す、ということですね。
話すことはもちろん大切ですが、私は誰かと保育について完全に向き合う、分かり合うことは難しいとも思っています。保育者はみんな子どもたちを見ていますし、それが求められる仕事です。だから保育者が一対一で向き合い語りすぎると、それは相手を攻撃したり否定することになってしまったり、「あの人はできているのに自分はできていない…」と思い悩むことにもなります。保育に対する考え方、できることはみんな違っていいんです。そんな姿を見て子どもは「大人って面白い」と感じるんじゃないかなって。A先生に怒られたことをB先生には伝えられるとか、甘えられる場所、居場所があるとか。「人と違うことがいいことなんだ」と保育者も子どもたちも感じられる、保育園がそんな場所であるといいなと思います。
多感な時期に誰と出会うか、どんなことに気付くか、感じるかがとても大きな意味を持つことを肌で感じるお話でした。「人と違うことがいいことなんだ」と優しく力強く語ってくれたちゃおさん、これまでその言葉に救われた保育者、保護者、子どもたちがたくさんいたことでしょう。ちゃおさん、この度は貴重なお話をありがとうございました!
次回インタビューでは「ちゃおさんが考える理想の園長とは」をお届けします。どうぞお楽しみに!
(2021.5 聞き手・編集:鏡味)