ゆうきマジシャンさん
30代 保育士歴13年目
幼保連携型認定こども園 副園長
―これまで色々な園を経験されてきたとのこと。だからこそ見えてらっしゃることもあるかと思います。園によりやはり様子は違いましたか。
規模や母体によって全く違いますね。ハード面、ソフト面、色々ありますが、その中で一番自分が気になったのは「保育の自由が利くかどうか」の点です。毎日型にはめられた保育をする園もあるわけですが、そうではなくもっと自由な発想で保育をできる園がいいと思っています。
―なるほど。「自由が利く」保育とは?気になるところです。
やってみたいと思った保育は、上司に伺いを立ててからやることが多いですよね。そんな中、以前の園の上司は、「いいよ!やってみな」とすぐに背中を押してくれたり、「もっとこうしても面白そうじゃん」と更なるアイディアをくれたりと、本当に楽しい日々でした。
―なるほど。良い上司の元、自由な発想で保育ができたのですね。面白い保育、具体的に教えてください。
まず前提として、子どもが主体的に楽しむことをサポートするのが保育だと思っています。5歳児クラス担任時の話ですが、子ども達は1年かけてピアノ・ダンス・将棋を楽しんでいました。せっかくなのでどこか披露できる場を作れないかと考え、ピアノは毎月の誕生会に、創作ダンスや将棋は生活発表会の“ブレーメンの音楽隊”に盛り込むことにしました。やる方も見る方も大喜びでしたね。
―自分の興味あるあそびを深めて発表でき、面白そうですね。
行事って、本番のために練習し、その日を迎えたらはい終わりというイメージがあります。でもそうではなく、あくまで連続するあそびの中の一つだと思います。すると子ども達は、「きょうおわっちゃうのヤダ」「たのしかったからまたやりたい」と言うのです。練習の際もこちらがグイグイ引っ張るのでなくあくまで子どもの主体性に重きを置いています。運動会について言えば、練習風景を録画して見て、より良いパフォーマンスを自分たちで考えながら進めました。また、使う道具は一斉配布でなく、一人ずつの様子により順に渡していきました。子ども達のやる気が湧いてくるのを待ったのです。初めは貰えず泣く子もいましたが、上達したら貰えるとわかると自主的に練習に励んだり、できる子に教わったりと頑張っていました。こちらも様子を見守りタイミング良く渡すようにしました。その過程もあり、本番で転ぶ子や間違える子がいると、起こしに行ったり耳打ちしに行ったりするなど、皆で協力し合う姿勢が見られました。一方リレーについては、仕組みを作る段階から子ども達と行いました。まずはエンドレスで走る→終わらない→ゴールを決める→適当な人数配分で走る→人数の少ないチームが勝つことに気づく→人数を揃える→早い子の多いチームが勝つことに気づく→編成を考える と、順に理解しました。それから走順やバトンの受け渡し方など、勝ち方を毎日考えながら取り組みましたね。
―簡単な「体験」と「省察」の繰り返しでしょうか。素晴らしい取り組みですね。
子ども達が自分の意思で動き、楽しみ、成長し、まとまっていくという姿を見ることができ、本当に楽しい一年でしたね。まさに「子どものハッピーと保育士のハッピーは一致する」の一年でした。
―「子どものハッピーと保育士のハッピーは一致する」ですか。保育で最も理想的な形に思います。今年、そのような素敵な園から移られたのですね。
これまでの取り組みが評価され、今後の私に期待を込めて、改革をしてほしい園があるとのお誘いを頂きました。前園を続けたい気持ちもありましたが、一方で挑戦したい気持ちも芽生え、移ることにしたのです。今の園はまだ一斉教育で同じあそびが全員で行われており、ほとんどの日課がカリキュラムで埋まっている園だったのです。前園のように、ぜひ楽しい保育を広めてほしいとの思いで呼んでいただきました。
―まさに引き抜き、さすがです。どのような課題があるのでしょう。
順番に考えていく必要がありますが、まずは業務の効率化ですね。未だにほとんどの書類が手書きでした。皆さん、大変だしどうにかしたいという思いがありながら、変化を起こしてこなかったのです。業務負担を減らし、保育のことを考えられる時間をより多く作るため、ICT化を進めていきたいと思います。
―よくぞ変えてくれたと思われるでしょうね。次に来る課題は何でしょう。
次の目標は、型にはまった一斉保育でなく、子ども主体の保育・子どもの待つ時間を極力なくした日課を作っていくことです。外に行きたい子、部屋で遊んでいたい子、それぞれ自分たちでやりたいあそびを選んで楽しめるようしたいです。
―子どものやりたいことに合わせた保育となると、職員数が多く必要になってくるなどの課題点もありますか。
そう思われるかもしれませんが、職員数が必要なのって一時期だけなんですよね。子どもが主体的に遊びだすと集中し、逆に職員も見守る時間が多くなってきます。年長であれば、遊び方が分からなければ一人の子に伝え、あとは皆その子から聞けばいい。また、低年齢であれば、やりたいことがそれぞれバラバラでも、同じ空間にいれば見渡すこともできる。そう思うと職員が多く必要ということにはならないですよね。そのためには綿密な計画を立て、環境を整えて準備をしていく必要があります。一方、理由があっての一斉保育はありだと思います。好きな時間に好きなことをやるというわけではなく、食事や昼寝など生活リズムを整えることも必要ですし、この時間だから今はこうしようと自分達でも分かるようになってほしいです。あくまで強制的にやらせるのでなく、自分たちで必要性を感じ、選択していけるように運んでいきたいです。
―なるほど。整えるところはフォローしつつ、一人ひとりに即した保育ですね。
インタビュー後編では、順風満帆な保育士人生と伺えるゆうきマジシャンさんが、これまでにぶつかった壁、そして、選ばれる園になるための秘訣を伺います。
<ゆうきマジシャンさん×保育>のひとコマ。
子ども達もご本人も楽しそうです!
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(2021.5 聞き手・編集:土屋)