kyonさん
20代 保育士歴8年目
公立保育園 勤務
―タイトルにもあるようにkyonさんは子どもに「寄り添う」ということについて勉強を重ねているのだとか。
園内研修で、自身が中心になり「寄り添う」をテーマに研究しました。そこで考えたことを基に、子どもに必要以上に声を掛け過ぎず、「寄り添う」ことを心掛けた保育を園を挙げて実践してきました。「危ない」「それはやっちゃダメ」「そこは行っちゃダメ」などの静止の言葉でなく、まず保育士が「どうしてダメなのか」「その子はどうしてそうしたいのか」を考えるのです。
―なるほど。詳しくお聞かせいただけますか。
「寄り添う」という言葉って、日誌やカリキュラムなどに頻繁に出てきますが、人それぞれで言葉の捉え方にかなり違いがあると感じていました。そこで、「寄り添う」って具体的に何かということから考えたのです。
―そう言われてみると、よく書類等で使われるある意味便利な言葉ですが、抽象的な表現ではありますね。
はい。「寄り添う」とはどういうことか園内でアンケートを取ってみると、実に97個の答えが返ってきたのです。そんなにも意味があるのだとしたら捉え方に違いが出て当然ですよね。そこで、よく似た意味を集めてカテゴリー分けをしました。それが、「共感する」「見守る」「体に触れる」「提案する」「こどもを主体とする」の5つです。そして場面ごとに、これはどの「寄り添う」だろう?と分類したのです。そうすることで、「子どもの気持ちにもっと寄り添おう」という幅のある言葉で済ませずに、より具体的な言葉がけや援助を考えられるようになりました。カテゴリーを設けたことでどの保育士も使いやすい「共通言語」のようになったということです。後輩に教える際も伝わりやすくなったように感じますし、保育士ごとにある解釈のズレも幾分解消できた気がします。
―なるほど、「共通言語」ですか。「寄り添う」保育の具体的なエピソードを伺えますか。
0歳児クラスでの出来事です。床にシートを敷き、水が出てくるペンで水描画をしていました。しばらく描いたのち、ある女の子が、水が出てくる先端を口につけたり立ち上がって机の上に描こうとしたりし始めました。飽きたのかなと思い、「もうやらないなら終わりにしようか」と言葉を掛けると、「いや、まだやる」と言うように首を横に振っています。でもまたしばらくすると同様のことをし始めます。数回このやり取りがあり、他の子も順番待ちしていたこともあって、「終わりにしようね」と抱っこで保育室に帰すことにしました。するとその子は大泣きで抵抗を示したのです。そんなエピソードがありました。
―ここから読み取れることがあったのですね。
ここでは、5つのカテゴリーのうちの「共感する」と「提案する」がもっとあると良かっただろうという話になりました。飽きたのではなく、ただシートより机に描きたかったのかもしれない。立って遊びたかっただけかもしれない。やめさせた理由が結局保育士側の都合だと気付けば、言葉掛けも違ってきて、泣いて戻らなくても良かったのではないかと思います。「立って遊びたかったの?」「ここから水が出るって分かったんだね」などと子どもの気持ちに共感したり行動をそのまま言葉にしたりしてみる。すると、そう尋ねられた子ども自身が「わたしってこうおもっていたんだ」と思いを整理することができるのですよね。また子どもだけでなく保育士自身も考えが整理でき、より共感できます。そうしたうえで、じゃあどうしようか選択肢を提示し、少しでも子どもが主体となって決められるようにしていきます。気持ちを切り替えるきっかけ作りですね。
―自分の思いって、言葉として耳から聞くことで初めて理解できることもありますよね。
言葉にして「こういうこと?」と尋ねていくと、1歳の子どもでも「いや、そうじゃないんだ」などとしっかり意思表示をし、やり取りできるんですよね。子どもってすごいと改めて思いますし、保育士の慮る幅を広げ、選択肢を増やしていかなければと思います。
―いかに思い込みと都合で動かしてしまっていたかと感じる事もありますよね。とはいえ、時になかなか変えられない都合があるのも事実。子どもの思いとうまく折り合いをつけるにはどうしていったらいいと考えますか。
それこそ「寄り添う」がキーワードになると思います。その子が何を感じ、何が嫌なのか。食事の時間になってもまだ遊んでいたい、そんな時は「そうだよね、まだやりたいよね!」とまずは子どもと同じ目線に立つ。そのうえで、「わかった、じゃあご飯を食べて、お昼寝して、その後もう一回できるように置いておく場所を決めようか!」などと、まずは分かったよと共感したうえで、子どもが少しでも決定権を持てるように運んでいきます。他には、「じゃあ先に他の子と手を洗ってくるから、帰ってくるまでにどうするか決めておいてね」と伝えておく。戻ってから、「決められたかな?」と聞いてみると、意外とスッと切り替えられたりするのですよね。それでも無理なら、あとはとにかく子どもと本気で相談です!!むりやり食事へ連れて行ったって絶対に食べることはできない。だからたとえ時間がかかっても、切り替えどころを探り、提案していきます。「じゃあどこに置いておこうか」など少し視点をずらして決定権を与える提案は有効かと思います。人に言われてやるのってきっと嫌ですものね。時に対応に時間をかけるので、職員同士の連携も大切です。アイコンタクトや雰囲気で連携できるととってもやりやすいです。
―やはり職員間の連携は欠かせないのですね。
連携を取りにくいなと思う相手もいました。でもそんな時は、その先生と日ごろから子どものエピソードを共有していくようにします。こんな可愛いところがあったんですよ。あの子のこんなところ大事にしたいですよね。などと、少しもらしておくのです。すると、「あ、今kyon先生あの子とやり取りしているから、ここの場面は大事にしてあげよう」と気にかけてもらえたりするのですよ。
―なんとやりとり上手!(拍手!)
「寄り添う」という言葉って保育の現場では本当によく使いますが、確かにとても広義であり、感覚的に使っていたことに気が付きました。もっと細かくかみ砕き、場面ごとに考えていくことで、本当の意味で生きた寄り添い方になるのですね。
インタビュー後編では、学ぶこと、発信することの大切さをお話しいただきます。
〈kyonさん×保育の一枚〉
kyonさんが中心となり園の皆さんで力を合わせ作り上げた「共通言語」
kyonさんのInstagramはこちら
(2021.07 聞き手・編集:土屋)