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(特別号)【教員Voice vol.3】「食」も「職」も、まずは触れること

更新日:2021.10.11|3(2週間) / 213(累計)

ヒューズ美代さん

保育士養成校教員 教員歴11年目

 

―中学校の家庭科教員、女子大の調理研究室助手を経て、保育士養成校教員になられたヒューズさん。これまでのご経験や知識を基に、食育ゼミを持たれているとのことです。食育はまさに保育において注目されておりますが、ヒューズさんの行う食育ではどういったことを大切にされているのでしょうか。

 

生活スタイルが多様化している現代、食事においても色々な選択肢があっていいと思っています。こうすべき、これはしちゃいけない、ということはないのではと。仕事で疲れた時は出来合いの物に頼ればいい。時には夜遅い外食になることだってある。神経質になり過ぎず、長い目で見るようお伝えしたいです。ただ、それらばかりに偏ってしまうと子どもの発達に影響が出てくることは否定できません。私は「食育は未来へのプレゼント」だと捉えており、今一生懸命関わることが子どもの将来へと繋がっていると考えています。

 

―柔軟に捉えることを意識しながら、その中でも大切にされているのはどのようなことでしょう。

 

やはり、「子どもを中心に据える」努力をすることかと思います。生活が夜型化したり、朝食を摂らなかったりと、どちらかというと大人の生活に子どもを巻き込んでしまう家庭も少なくありません。ですが成長盛りの幼少期、できる限り子どもの生活リズムに合わせるよう努めたいところです。また、家庭のご飯を食べる事は栄養摂取の面だけでなく、「おふくろの味」を伝える機会でもあると思います。一緒に台所に立って味を伝えたり、郷土料理や行事食を食べたりと、本来家庭で継承されてきた食の温かさのようなものを伝える機能。そこは大事にしたいと考えています。

 

―保護者に食育の大切さを伝えるのは時に難しくもありますが、意識されていることはありますか。

 

まずは頭ごなしに否定せず、保護者の言葉に耳を傾けることです。何に困っているのか一緒に探るのです。すると、保護者自身の生活経験や知識の不足を感じることがよくあります。そういった場合は、子どもの姿をお伝えするようにしています。例えば、朝食を摂らなかったことで子どもが園でどのような様子だったか、また、普段孤食の子が園の保育参加で母親と一緒に食べ、どれ程嬉しそうだったか。そういった姿を伝え、保護者自身が自覚することが大事だと思います。そもそも保護者自身が朝食を摂っていない場合も多い中、子どものリズムに合わせる努力ができるよう、まずは問題意識を持てるように働きかけています。

 

―なるほど。また、食の好き嫌いについても悩みは多く聞かれ、食事の時間を憂鬱に感じる保護者や保育士が少なくない印象があります。どのように働きかけていくのがいいか、皆さん悩まれているようです。

 

食べられないものがあっても他で補えるので、神経質になる必要はありません。また、以前取ったアンケートによると、幼少期苦手だったものを成長と共に克服する人の割合は8割ありました。長い目で見ていくことが大事です。ただ、野菜全般・魚全般が食べられないなどとなると、食事の経験が大きく限定されます。何でもおいしく食べられる方が生きやすいし人生が豊かになるはず。なので、少しでもそのためにできる事を考えます。例えば野菜を園や家庭で育てたり、クッキングをしたりとまずは色々な食材に触れること。ピーマンだって、毎日お水をやり一生懸命育てたら大切な存在になります。それをただ口から入れるだけでなく、触ってツルツルの感触を味わったり、振ってカサカサという音を楽しんだりと、色々な経験から親しみをもつことが大事だと考えています。

 

―経口だけでなく、様々な形で食材に親しむ。なるほど、とても大切なことに感じます。

 

1つ、好き嫌いで気を付けることとして、それはワガママやしつけの問題と言いきることはできないということです。味覚の問題の場合もあるのです。味を感じるセンサーの域値が子どもによって違い、敏感な子は苦さなど感じやすく、それが偏食に繋がる可能性もあります。生まれつきの性質やこだわりも大いにあり、子ども自身の努力ではどうにもならないことがあるのです。なのでワガママとだけで片付けず、考慮していく必要があると思っています。

 

―ありがとうございます、食育について貴重なお話を伺いました。ヒューズさんは就職指導も担当されているとのことですが、学生さんにはどのようなメッセージを送っているのでしょうか。

 

もっとも大切なことは、「自分で選ぶ」という事です。一人ひとり理想の保育観や価値観は違います。これだけは譲れないという条件を自身で整理し、候補を絞り込んでいきます。ここでいいかと軽い気持ちで決めた就職先は、長続きしない傾向があります。自分で悩み抜いて決めた学生は、一年目で壁に多々ぶつかったとしても、「自分で選択した」という経験が壁を乗り越える原動力となっているように感じます。

 

―親身に相談に乗り必要な情報は提供しつつも、教員としての主観は入れすぎず、最終的に選ぶのは学生自身ということですね。

 

はい。先生に勧められたから、実習先で声を掛けられたから、などと他人軸の考えではなく、自分で悩み抜いたからこそ納得し責任を持てるのです。万が一それが上手くいかなかったとしても、次に繋がると思っています。また、簡単に手に入れたものは簡単に手放してしまうものだと私は思います。

 

―授業や就職指導で日々学生さんと向き合い、感じる課題点などはありますか。

 

自分に自信がない、自己肯定感が低い学生が多い印象です。専門学校ゆえ基礎学力や経験に差があることは事実ですが、中には成長過程で自己否定につながる辛い経験をしている学生もいます。また、受験などの競争体験がないまま来た学生もいて、就職試験で初めてふるいの場に立つのです。すると、もともとの自信のなさ、競争体験の乏しさに起因し、チャレンジする前から恐怖心を抱いて諦めてしまう。「ピアノの試験があるからこの園は辞めておこう」などと、手に入れたいものがあっても山を見ただけで登るのを諦めてしまうタイプの学生が多いですね。

 

―子どもの自己肯定感を育むことが保育の最重要テーマの一つだと思いますが、そのためにはまずもって保育士自身がそれを高めることが重要と感じます。学生さんのうちに少しでもできることはどのようなことでしょう。

 

本校は3年制である利点を生かし、いくつかのゼミを設けています。ゼミの活動を通し色々な場面で実際に子どもと触れ合う機会を持ち、実践力を養います。例えば食育ゼミでは、定期的に親子クッキングを開催しています。子どもの笑顔に触れる多くの経験は、自信にも繋がります。授業や実習で挫けそうになった時、その経験が助けになる。そして少しでも保育の仕事に誇りと自信を持って巣立っていってほしいと思います。保育士を目指しているからこそ、子どもとの関わりの中でつける自信は最も自分の力になると思っています。

 

 

食育にも就職にも共通する大切なことは、本人が直接触れて、感じ、考えること。そのために教員としてできる事は、本人の想いを傾聴し、こうすべきという主観を挟み過ぎず、柔軟に、あくまで本人の意思・選択を尊重していくことなのですね。一方で忘れずに持ちたい軸は「子どもを中心に据える」ということ。背筋を伸ばして自覚し、子どもの成長のための努力は怠らないよう、メッセージを送ってらっしゃいます。また、たとえ自信がもてなくても、「謙虚は大事だが卑屈になってはいけない」と学生さんの背中を押し、保育の仕事に少しでも多くの誇りと希望を持てるようサポートされています。その姿勢に、強さと温かさをひしひしと感じた次第です。この度は貴重なお話を誠にありがとうございました。

 

〈ヒューズ美代さん×保育のひとコマ〉

食育ゼミのクッキングの様子と、ゼミで作成した食育カルタです。

 

(2021.09 聞き手・編集:土屋)

 

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